ページの本文へ

ロジスティード

(後編)理想の物流を実現せよ。
社会課題を解決する物流DXの最前線

なぜ、日立物流は輸送事業をDXするのか? SSCV開発ストーリー

安全対策をきっかけに始まったSSCV構想は、物流業界全体のDXに広がりを見せている。ドライバー不足や安全の確保など、課題を抱える物流業界の未来に向けてSSCVが描く理想の物流とは?そしてサービス提供を開始した、SSCVの現在に迫る。

前編はこちらからご覧いただけます。
(前編)事故をゼロにせよ。世界初、事故原因の見える化への挑戦

国をあげてDX(デジタル・トランスフォーメーション)が推進されている。

DXとは、デジタル技術を基盤として、業務、事業、そして企業・ビジネスモデル全体を新次元に変革することだ。

物流業界もDXの実現に向けて動き出している。たとえば倉庫に関していえば、デジタル化、自動化、効率化、省人化を進めるべく、自動倉庫システム、自律走行の無人搬送車AMR(autonomous mobile robot)やピッキングロボットなどの導入が進んでいる。スマートフォンアプリによる求車求貨のマッチング、トラック予約受付(バース予約)、リアルタイムでの車両コンディション管理といった新たなサービスも次々に生まれている。

だが、新たなシステムや業務アプリケーション、最新テクノロジーを利用したデバイスなどを導入するだけでDXが進んでいくわけではない。

車両事故ゼロを原点にした物流DX

物流業界向けのさまざまなソリューションが生まれるなか、DXによる物流の高度化を積極的に推し進めているのが日立物流だ。

最新のデジタルテクノロジーを駆使したシステム、デバイス、ハードウエアの導入を前提にDXを進めるところが多いなか、日立物流の物流DXに対するアプローチは、「車両事故ゼロ」が原点にある。

最新のシステムやデバイスの導入により、いくら既存のオペレーションや輸送効率の改善などが見込めたとしても、実際の輸送の現場において安全安心が100%担保できなければ、サプライチェーン全体の最適化にはならないと考えているからだ。

現在では、安全(Safety)、効率化(Smart)、車両管理(Vehicle)と3本の柱となったサービスとして位置づけられているが、一見関連性のなさそうな3つの柱がどのようにつながるのか?

佐藤清輝執行役専務は語る。

「ここ数十年、当社の事業の軸足が3PLに移り、倉庫の運用管理が業務の大きな部分を占めるようになっている。しかし、そもそも倉庫は何のためにあるのかといえば、トラックのためだ。倉庫は荷主の荷物を目的地に届けるために必要な機能のひとつだ」

佐藤専務写真

「あくまでも主役はトラック。その周囲にある、配送ドライバー、トラックを運用管理する部門、協力会社などが機能してこそ、輸送事業が動く。そうした大きな視点に立てば、SSCV構想のなかですべてがつながってくる。虫の目のように、目の前の課題の解決ばかりに注意が向いていると、全体の向かうべき方向を見誤る。ときには鳥の目のように、全体を俯瞰で見ることが重要だ。何が必要なのか、何が足りないのか、自然に見えてくるはず」

トラック・運行計画・ドライバーの健康のすべてが揃っていなければ、輸送事業は成り立たない。そのサポートを推し進めるのがSSCVだ。

SSCV構想を実現する3つの柱

現在、SSCVを構成する3つの主要サービスは次のとおりだ。

SSCVを構成する3つの主要サービス

「SSCV-Safety」は、SSCV構想の原点になったもので、安全な運行管理、事故ゼロの社会をめざしたものだ。

ドライバーの生体情報や車両の挙動をセンシングし、AIで分析。リアルタイムにドライバーや運行管理者に警告を発信し、事故を未然に防ぐ。すでに日立物流グループの全車両に導入し、漫然運転に起因した車両事故ゼロを継続中だ。

次に「SSCV-Smart」だが、輸配送に関する業務(受発注管理、配車管理、勤怠管理など)をデジタル化し、輸送事業者の業務効率化や、コンプライアンス(法令遵守)強化の支援をめざしている。

「運行予定や労働時間などを記録する配車台帳の作成は法令で定められている。しかし、中小の輸送事業者の中には、人手不足のため、台帳の作成が後手に回っているところが少なくない。法令違反は行政処分の対象。業務停止処分が下ったら、その後の事業の継続が危うくなる」(南雲氏)

中小のパートナー企業へのヒアリングを実施し、システムやデバイスの操作性、画面デザインなど、実際に作業を行う人の声を拾い、改善を繰り返してきたというのも特徴的だ。

3つ目の「SSCV-Vehicle」は、車両管理や整備実績を見える化・デジタル化し、車両稼働率の向上と管理工数の削減を実現するもの。走行中のデータをリアルタイムで取得・統計解析することで車両の故障予兆・予防整備につなげていく。さらに、グループ会社である日立オートサービスと連携し、FMS(フリートマネジメントサービス)として車両の調達から廃車におけるライフサイクルの一括管理、最適化を進めている。

南雲氏写真

「故障予兆が出たら、壊れる前に部品交換をする。たとえば、1万円の部品なら1万円のコストで交換できるが、壊れてしまってからでは修理代はその何十倍もかかる。しかも、修理期間中はそのトラックを遊ばせておくことになるから、とくに中小の輸送事業者には負担が大きい」(南雲氏)

SSCVが叶える理想の物流の姿

トラックは常に時間に縛られて動いている。オンスケジュールでの運行には、倉庫内の作業とトラックの動きがうまく連動していなければならない。

トラックイメージ写真

どのトラックが担当するのか、ドライバーの勤務管理や健康状態によってあらかじめ決定される。出発前には点呼を行い乗車前の健康状態を確認。運行中にAIによるインシデントへの警告があれば、管理者からドライバーに通知が入る。帰着後には、その日のうちに運行状態や運行効率などの情報がドライバーと管理者との間で共有される。

トラックが出荷のために到着したときには、荷物、送り状、納品書がそろっており、ドライバーがただちに検収し、倉庫側が「よろしくお願いします」と送り出せる状態が望ましい。入荷の場合には、トラックが倉庫に到着したら、待たされることなくバースに接車でき、積み・卸しを完了できるのが理想だ。

また、故障による配送の遅延を防止するためには、トラックの故障予兆や予防整備なども必要になってくる。

データはすべてクラウド上でつながり、ドライバーを中心とした健康管理や安全教育の徹底、求車求貨、運行指示、検収管理の効率化など、輸送事業に必要な要素をすべてカバーする。

そもそもSSCV構想は、自社グループ内にとどまらず、業界全体を巻き込む壮大なオープンデジタルプラットフォームの構築だ。

たとえば、富士通グループの富士通交通・道路データサービスが開発・提供する商用車約23万台のデータを活用した適正運行ルート策定支援サービス「ToXYZ」との連携。

トラックが確実に通行できるルート検索や、精度の高い所用時間見積などを活用することで、「自動車運転者の労働時間等の改善の基準(改善基準告示)」の内容に則った運行計画を自動で生成し、運行指示書を作成できるSSCV-Smartのサービスにつながった。

「実際にトラックが走ったデータに基づいた情報であり、季節要因や直近3か月の渋滞状態、1年前はどうだったのかなど、一般のカーナビからはわからないリアルな情報を得ることができる。」(南雲氏)

このような取り組み姿勢に共鳴し、協創パートナーとして協力を申し出る企業も増えてきている。

2021年度中には、「SSCV-Safety」「SSCV-Smart」「SSCV-Vehicle」、それぞれのサービスが、一般の事業者にも販売が開始される。

SSCV構想の掲げる理想は高い。SSCVが物流業界を支えるプラットフォームとなり、物流業界が直面する社会課題を解決するまで、日立物流のチャレンジは続く。

※所属部署、役職等は取材時のものになります。