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ロジスティード

統合報告書2021 オンライン版

社外取締役対談

次なる成長ステージに向けたガバナンスの「これから」について

(左)社外取締役 取締役会議長 指名委員長 浦野 光人
(右)社外取締役 指名委員 報酬委員 西島 剛志

感染症リスクや気候変動リスクの拡大によって事業環境が激しく変化する中、日立物流グループは、事業を通じて経済価値と社会価値を創出しながら利益成長を実現し、それを支えるコーポレートガバナンスも、積極的に進化させてきました。次なる成長ステージへの移行に向けて、今後のガバナンスは何に注力するべきか。独立社外取締役2名による対談を実施しました。

2020年度の当社のコーポレートガバナンスにおいて、お二人はどのような役割を果たされたかについてお話しください。西島取締役は就任1年目でしたので、当社のガバナンスや取締役会への印象等もお聞かせください。

浦野: 世の中全体が新型コロナウイルスに脅かされた2020年度は、社会がどのような局面にあっても、物流業は極めて重要な使命を持つことを改めて認識しました。当社グループは食品・日用品・医薬品など生活必需品をはじめ、幅広い業種のお客様への物流サービスの提供を通じて人々の生活を支えており、仮に当社のオペレーションが滞れば、世の中のサプライチェーンの流れも止まりかねません。取締役会もこれを強く認識しながら業務執行をモニタリングし、コロナ禍でも安定的な事業運営を継続することに注力しました。加えて、LOGISTEED(ロジスティード)という新たなビジネスコンセプトのもと、「持続可能な輸送サービス」と「事故ゼロ社会」の実現をめざし開発してきたSSCVについても取締役会で重点的に議論し、輸送業界全体の安全確保と効率化に向けた取り組みとして大きく前進させることもできました。コロナ禍という逆境の中で売上が減少した分野もある一方、こうした非常時対応や社会課題の解決について取締役会で非常に活発に議論できたことが、良い結果につながったと認識しています。 そうした中私自身は、指名委員会等設置会社における独立社外取締役として引き続きモニタリングに注力する一方、意思決定における重要局面では執行側の「背中を押す」ことも意識してきました。例えば、先ほどお話ししたSSCVは当初は非常に小さな規模からスタートしましたが、今後は旅客も含む輸送事業者への事業機会が期待できるという執行側からの声を踏まえ、同サービスが創出す る「安全確保」や「効率化」という価値を輸送業界全体で共有する方向で一気に加速するべきであると提言しました。
西島: 約1年前にコロナ禍の只中で就任してまず感じたのは、やはり、物流業は人々の暮らしに本当に欠くことができない事業であるという点です。加えて、執行側が現場の日々の状況の隅々にまで神経を張り巡らし、適時的確にさまざまな対応をする様子を目の当たりにし、当社に根づく「現場力」の強さを感じました。また、取締役会では そうした足元の取り組みだけでなく、中長期的視点からの本質的な議論ができている点も高く評価しています。私自身としては、指名委員、報酬委員として業務執行をしっかりモニタリングするとともに、企業経営の経験を活かしながら成長に向けた「攻め」の経営戦略に深く関わる一方、「守り」においては、リスクマネジメントやグループガバナンスにまつわる提言に努めてきました。特に、私が経営に携わってきた計測・制御機器メーカーはモノをつくるだけでなくお客様の価値創造を支援するソリューションの提供に注力しており、モノを運ぶだけでなく包括的なソリューションを提供する当社と、多くの共通項があります。 メーカーでの経営を通じて培ってきた経験と知見を活かし、当社の経営をサポートしていく所存です。

現在の当社のガバナンスの特徴、強み等についてどのように捉えていますか。

西島:独立性が非常に高く※、かつ、各社外取締役のバックグラウンドや経歴が多様性に富んでいるのが最大の特徴です。これにより、十分なモニタリング機能が担保されていると認識しています。また、「良い経営をするために良いガバナンスをつくる」という目的意識が経営陣にしっかりと共有され、執行側と社外取締役との間で非常に活発でオープンな議論が交わされている点が強みであると思います。そうした雰囲気のもと、社外取締役からはときにかなり厳しい質問や意見も出され、健全な緊張感と一体感が両立できている印象です。社外取締役への情報提供も積極的になされており、私も、多くの現場を視察することができました。今後は、長期的な企業価値向上へ向けた取り組みなど本質的なテーマに多くの時間を割いて議論が深まれば、さらに良い取締役会になると考えます。
浦野:当社のガバナンスは、ここ数年で大きく進化したと評価しています。2003年に委員会等設置会社に移行後しばらくはこの制度の長所を活かし切れていませんでしたが、現在は三委員会それぞれの過半数を独立社外取締役とし、人数も絞ることで、質の高い議論と活動が展開されています。具体的には、指名委員会では各役員の1年間の活動を評価しながら次年度の体制について率直な議論がされているほか、報酬委員会では、各ステークホルダーに配意した全く新しい業績連動型株式報酬制度を2020年度から運用しています。加えて監査委員会では、各監査委員が書類を通してだけでなく往査に赴くことで、監査機能が有効に機能していると言えます。
また、昨年の対談で指摘した「社外取締役が執行役会の議論を事前に把握できない」という課題については、社外取締役がオンラインで執行役会を傍聴できるようになり、情報ギャップの大部分が解消されました。さらに、議題によっては執行役会で取り上げたテーマを取締役会でも再度議論することで、「取締役会と執行役会の風通しが非常に良い」会社になったと認識しています。私はこれまで多くの企業の社外取締役を務めてきましたが、現在の当社のガバナンスは、非常に良い状況にあると自負しています。

※取締役9名中6名が独立役員(2021年6月22日現在)

ガバナンスの実効性を高めていくための課題について、昨年の対談でご指摘のあった内容の進捗状況等をお話しください。まずは、「資本効率の改善」についてお願いします。

浦野:資本効率の改善については私も含めガバナンスの重要テーマとして数年来注力し、現場での教育やROICツリーへの取り組みに注力してきた結果(CFOメッセージ P.22-23)、徐々に根付き始めたと認識しています。まだ100%ではありませんが、投資案件を検討する際は初期段階から資本効率を意識し始めているほか、VC21活動や日常業務の一つとして、資本効率を当たり前のように議論できる素地が形成され始めています。この点は素晴らしいと思います。

続いて、「ITインフラのDXへのキャッチアップ」についてお願いします。

西島:DXにおける当社の課題の1つは、3PL事業を本格展開するために早くからITを使いこなしてきたが故の「レガシーアセット」が「設備」「文化」「使い方」において残っている点です。変革を進めるには一気に入れ替えるのではなく段階を踏む必要がありますが、この点は経営陣もしっかりと認識し、「課題の抽出」および「改善、変革に向けたロードマップの策定」まではできつつあります。加えて、ITガバナンスへの課題認識もかなり強く、国内外のグループ会社を含め、横串を通すための仕組みや体制づくりが進んでいます。キャッチアップのベースとなる枠組みづくりは完了し、抽出された課題の解決に向かって走り始めていることから、改革は正しい方向で進んでいると言えます。
ただし、DXは単にITインフラの改善や刷新だけでなく、企業文化や風土・ビジネスモデルの変革、イノベーションの創出も視野に入れて進めるべきであり、非常に広範囲で深い取り組みが求められます。かつ、ITは日進月歩で進化し続けるいわば「ムービングターゲット」でもあるため、一旦フレームをつくった後は粛々と進めればよいわけではなく、「常に変革し続ける」くらいのスタンスで取り組む必要があります。また、一旦策定した計画のもとで走り始め、課題にぶつかった際にも機敏に対処し、場合によっては計画を調整・変更するといった柔軟性も求められます。これら一連の取り組みのカギとなるIT人財については当社も強化する必要があり、ムービングターゲットにスピーディにキャッチアップし続けていくためのスキルセットや能力を、採用/育成の両面から強化していくことが今後の課題であると考えます。

2019年度の取締役会の実効性評価では「取締役会での議論が、各ステークホルダーを本当に意識したものになっているか」という課題が指摘されました。この点について、2020年度の進捗等をお話しください。

浦野:そもそも「LOGISTEED」というビジネスコンセプトがステークホルダーとのエコシステムの形成を大前提としていることもあり、取締役会における議論は、この1年で各ステークホルダーを強く意識したものへと大きく変わりました。
具体的には、株主・投資家と共有したKPIであるTSRを念頭におきながら配当性向について議論しているほか、TSRやROEと密接に連動する役員報酬制度の運用も始めています。先ほどお話ししたSSCVのような社会課題解決型ビジネスについては、ビジネスパートナーや地域社会を強く意識し、日立物流として課題を如何に解決していくか議論しています。また、お客様への新規提案や投資についての議論では常に「お客様にとってのメリットは何か」を重視しているほか、従業員については、VC21活動が進展するにつれ、従業員のワークライフバランスや満足度の向上についても俎上に上がる回数が増えています。ビジネスパートナーについて加えれば、Win-Winの関係を構築するべく、そのためのコミュニケーション等について取締役会で議論しています。

続いて、昨年の対談でご指摘のあった経営課題への対応について、その後の進捗等をお話しください。まず、「DXの加速、ITインフラの強化」についてお願いします。

西島:インターナルDXについては先ほどお話しした通りですが、エクスターナルDXについては、SSCVとスマートウエアハウス、SCDOSというコアとなるソリューションの実装や事業展開が始まっており、中期経営計画「LOGISTEED 2021」で想定した通り着実に進捗しています。ただし私は、「LOGISTEED」がめざすのはさらに一段上の包括的な「サプライチェーンマネジメントの最適化」や「より幅の広いシステムの統合(システムオブシステムズ等)」であると思いますので、それが今後の大きな取り組み課題であると見ています。例えば、当社グループは従来の物流領域を超えた新たなイノベーションの実現をめざしていますが、そこで生まれる経済価値や社会価値は具体的にどのようなもので、どのように実装されるかをステークホルダーに対し明らかにしていく必要があります。これにより、エコシステムの形成を成長ドライバーとする当社の戦略がさらに具現化されるはずであり、私もそれをめざしてさまざまな議論に参加しているところです。

「事業ポートフォリオの組み換え」についてはいかがでしょうか。

浦野:当社は中期経営計画の中で今後のM&Aや資本政策等に充当する金額水準を示し、事業ポートフォリオの組み換えに向けてM&A等を実施していく姿勢を明確にしています。その具体的内容は執行側が検討を進めていますが、私は、既存事業、新事業のそれぞれについてさまざまな可能性があると考えています。まず既存事業における3PL事業については、ECプラットフォームセンターなど新たな取り組みを積極化していますが、基本的には国内リーディングカンパニーとしてキャッシュカウの状況(成熟期)にあり、国内で今後大きな成長余地を見出すことは難しい可能性があります。フォワーディング事業については、足元では外部環境の影響もあり好調ですがこれが長期的に続くかは未知数です。重量機工事業については、現在は国内案件が多いものの、将来的には新興国で大きな成長が見込めるかもしれません。
また、「金流×商流×物流×情流」をキーワードとする新事業では、既に「金流」や「商流」領域を含めたビジネスが始まっています。現在は非常に小さな規模ですが今後大きく拡大し、将来的には、お客様の仕入れや決済機能を担うところまで発展する可能性もゼロではありません。
いずれにしても、持続的な成長の実現に向けた事業ポートフォリオの組み換えは常に必要であり、「キャッシュカウを大事にしながら成長分野を開拓し、不採算事業からは撤退する」という基本を重視することで、自ずと資本効率の改善につながるはずです。また、成長分野を開拓するための新事業の展開にあたってはどれだけリスクテイクするかがポイントになりますが、先ほどのお客様の仕入れ業務代行等でいえば、初期段階では相当大きなリスクが見込まれます。ROIC経営は今後も継続しますが、WACCの数字を変えてでもリスクテイクした方が良いような「ここぞ」という局面で、社外取締役の私たちが背中を押すこともあるかもしれません。

次に、「グループガバナンスの強化」についてお願いします。

浦野:当社はこれまで国際物流をM&Aによって拡大しており、グループガバナンスについて、昨年の対談では「統一的なグループガバナンスの構築をめざす」と申し上げました。しかし今後は、「統一的なガバナンスでいいのか」という根本的な問題を含め、グローバルな視点から多くの議論を重ねていく必要があります。例えば、単一製品、単一ブランドを展開するグローバル企業のように統一的なガバナンスを成功させている事例もありますが、当社グループのように海外では「地域完結型モデル」を基本とする場合、本当に統一的なガバナンスを効かせるのがベストか否かについては今後の経営課題として議論していくべきであると考えます。
西島:あくまでも就任後1年間の議論や監査委員会からの報告を通して受けた印象の範囲内ですが、国際物流では事業環境、事業内容、強みが異なるグループ会社がM&Aで集まっているため、その差異をきちんと見える化し、標準化・共通化するべき項目を整理・峻別する作業はもう少し強化していく必要があります。しかしながら、私自身も100社超のグループ会社を擁し、当社と同様にサービスを主軸とするグローバル企業を経営してきた経験からすると、全てにおいて統一的なガバナンスを世界中にかけるのは難しいと考えます。各地域における事業環境や強み、お客様の特徴を踏まえたグループガバナンスの最適解について、今後の取締役会等の議論の中で模索していきたいと思います。

ありがとうございます。最後に、当社グループのESGやSDGsへの取り組みについての課題認識等をお話しください。

浦野:ESGやSDGsへの取り組みを積極的に推進するには、当社グループの全員がこれらの概念について「腹落ち」していくことが重要です。その視点から、まず「E(環境)」については、トラック輸送におけるCO2排出量の削減に早くから注力し着実に成果を出してきたほか、「G(ガバナンス)」についても、先ほどお話しした通り良い方向に進化しています。ただしSDGsへの取り組みについては、17目標の捉え方において「人間も地球システムの一部である」ということをもう少し強く意識すれば、さらに「腹落ち」していくことができるのではないでしょうか。
西島:私は、当社グループはこれらの取り組みによって「価値を生む」ことに注力するべきだと思います。具体的には、従業員が「腹落ち」することでモチベーションや生産性のさらなる向上につながるほか、高い理念や目標を掲げることで、優秀な人財が集まることも期待できます。加えて、「E」や「S」の取り組みがさらに進展すれば、取引先の増加などによって経済価値も高まります。そして、このように生み出された全ての「価値」を、ステークホルダーに徹底的に訴求していくことが非常に重要であると考えます。

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